ケンタの敗北5

 少年は楽には殺されなかった。
 校舎から逃げ出した生徒や教師、近隣の住民たちは、校舎を取り囲むフェンスの外で、少年がなぶられる声を聞いた。あちこちに据えられた拡声器が、少年のやられる音を、逐一大音量で流していた。
 悲鳴。苦鳴。殴る音。
 コンクリートの砕ける音。血を吐く音。
(かわいそうに。もうこの左腕、使いものにならないわねぇ)
 何か堅いものがぽきんと折れる音。
 絶叫。
 布の破れる音。甘く囁く声。
 噛みしめられる歯の音。何かを揺する音。布の擦れる音。
 か細い呻き。嘲笑。
(…………ぁ、ぁぁ……)
 びちゃ、と何か液体の滴る音。
 惨いことを……と誰かが言った。
 誰も何も言えなかった。
 
 夕暮れになり、日が沈んでいく。
 人々は立ち尽くしたまま、その凄惨な処刑を聞き届けた。健太の絶叫がいつまでも響いていた。
 夜が更け、朝日とともに、徹底的に辱められた少年が、見せしめとして、校舎の時計搭に磔にされた。
 
 変わり果てたその姿を、正視できるものは誰もいなかった。


 

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コメント

  1. mudujin より:

    とってもいいですね

  2. Dark Wolf より:

    ありがとうございます。
    ショタリョナもまた書いてみたいです〜。

  3. 匿名 より:

    サッカー少年で書いてほしい
    プーマジャージがボロボロになる
    みたいな感じで