ケンタの敗北3

「反乱組織に潜伏して、君の身体を研究した成果はあったってわけね」
「せ、先生……」
「キミの身体能力は想像以上だった。どんなに強力な魔獣をぶつけても、シミュレーションの結果、こちらの勝率は限りなく低かった。……でもキミの身体を調べるうち、ふと気づいたのよ。〝ここ〟はどうなんだろう。ヒーローといえども所詮は子供。外からの攻撃への耐性は高くても、〝ここ〟への刺激の耐性はどうなのかなって」
「先生……。う、嘘でしょ……」
 頭の中ではもうわかっていたが、健太の心は事実を受け止めることを拒んだ。理恵の次にこの学校で信頼していた人物が、まさか裏切り者だなんて信じられない。健太はふるふると首を振った。
「これでも……そんなこと言ってられる?」
 吉永は微笑を浮かべると、理恵を押しのけ、健太の前へ立った。股間で蠢く手にすっかり力を奪われた彼の胸へ、そっと自分の手のひらを押し付ける。
「ぐはあっ!」
 衝撃とともに、健太の身体は吹き飛ばされていた。体育館の外壁に背中から激突し、壁に亀裂が走る。視界が真っ白に弾けた。
「……が、ぁっ」
 頭が揺れ、健太の身体はそのまま前のめりに崩れた。地面に倒れ伏す。
「あっはっは、よわーい。ケンタくん、よわすぎー」
「う……うう……」
 歯を食いしばる。なんとか上体を起こし、健太は立ち上がった。
 足元がふらつく。普段なら、こんな攻撃でこれほどのダメージは受けなかったはずだ。力を奪われ、防御も受け身もままならなかった。
「先生……本当に……」
「本当に、よ! さあかかってきなさい。……理恵ちゃんを守りたいならね」
「くっ!」
 健太は地を蹴った。理恵の名を出された瞬間に、迷いは消し飛んでいた。彼女を傷つけることだけは許さない。
 目にも止まらぬ早さで瞬間的に距離を詰め、拳を振り上げ――
 吉永がすっと左手を差し出した。
 刹那、五本の指が導線の束のように分離し、無数の触手となってケンタを襲った。振り上げたケンタの右腕、左腕、右脚、左脚。
 がんじがらめに絡みつく。
「うわあっ!」
 ピンと貼った触手に、小柄な健太の身体は宙に大の字に固定された。
「ふふふ、自ら魔獣の改造手術を受けた私に、勝てるかしら?」
「くそ、こんなものっ」
 健太は右腕に力をこめた。縛り上げられていた触手がみしみしと音を立て、やがてブツッと大きな音を立てて千切れる。
「こんなもので、負けるかっ」
 続いて左腕に力をこめた。圧倒的な力で触手を引きちぎる寸前――
「……!」
 触手が、健太の股間を撫でていた。短パンの柔らかい生地の上から、さわさわと。
 下腹部から這い寄る感覚に、健太の左腕の力が緩んだ。
 すぐさま、触手にぎゅうっと締め付けられる。再生した触手がまた右腕に絡みついた。
 股間からの刺激に全身が弛緩し、振り解けない。
「く……くそぉ。な、なんなんだよ……。撫でられただけで……力が……」
「あっはっは。ウブな子供には経験の無い刺激みたいね。いくら強い精神力を持っていても、耐性のない攻撃にはひとたまりもない。ケンタくん、こんなの全然序の口なのよ」
 吉永が言うと、触手は動きを変えた。ただ撫でていただけだったものが、尻の方へと移動した。そこからゆっくりと急所の方に、なぞるように移動した。
「あ……あ、はぁっ! な、なん――う、ぁぁぁっ……ぉ」
 短パンの上から、竿の裏を通り、亀頭の部分を這う。
 未知の刺激に、健太は為す術がなかった。身体をびくびくと震わせながら、なすがままになっているしかなかった。
「ぅ……くぁ……」
「どうしたの? ケンタくん。これしきのことで手も足も出ないの? あーあー、大きくしちゃって。理恵ちゃんが見てるのに恥ずかしいわよ?」
 顔を上げると、吉永の後ろから理恵がこちらを見やっていた。起きあがった中学生達に拘束されながら、目を見開いて健太を見やっている。
 健太は自分の下腹部を見下ろした。短パンの上から、股間が盛り上がっていた。
 よくわからない羞恥と屈辱に、顔が真っ赤になった。
「な、なんだ……これ」
「あっはっは、何、自分のモノが勃つってことすらもわかってなかったの。お話にならないわね。そら、気持ちいいだけじゃないわよ!」
「うぁぁぁっ!」
 股間への〝攻撃〟が止むと同時に、触手は掴んでいた健太を放り投げた。健太の身体が放物線を描き、体育館の窓へ頭から飛び込んでいく。受け身を取ることもできず、窓ガラスを破り、健太は体育館の床に転がった。
「う、うう……。み、みんな、逃げ、て……!」
昼休み、体育館でバスケットやバレーボールを楽しんでいた生徒達は、誰も健太の必死の叫びに反応できなかった。短パン姿の小等部の子供が、魔獣と戦っているだなどと、想像もつかなかったのだ。


 

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