聖剣伝説3 デュランVS紅蓮の魔導士 3

「ふふふ。まだ声が出せるじゃないか。泣け。泣き叫べ。仲間が助けに来てくれるかもしれんぞ」
 戒めを解かれ、デュランは無様に地面に墜落する。股間を抱え、海老のように丸まり、胃からせりあがってきた吐瀉物を吐き出す。
「――ッッ!!」
「どうした。立たないのか」
「ぁぅぅぅぅぅぅぅっっ!!」
 デュランは痛みを堪えながら、なんとか股間から手をもぎ放そうとする。だが無理だ。動物的本能が、被撃したばかりの股間を守ろうとしている。
「くくく。目に涙を溜めて転がっているか。所詮ガキだな。おまえはそこで丸まっていろ。国王を殺してきてやる」
 がしっ。
 これも王を守る騎士としての本能で、デュランの手が魔導士の足をぐっと掴んだ。
「ふっ」
 魔導士が笑い、デュランを蹴って仰向けにする。間髪いれずに、デュランの股ぐらにブーツをめりこませた。
「おぶえええええええええええええええええええっっっぅ!!」
 少年騎士の絶叫を楽しみながら、ぐりぐりと丁寧に踏み躙る。
「げぶあぁぁぁぁああああああああぁぁぁぇぇぇっ」
 足の下で少年の男としての命が潰れていくのを感じる。
 潰れる寸前で足を離した。
「ふふ。どうした」
 苦痛に手足をばらばらにして目を剥き、ひくひくと震えるデュラン。魔導士はその顔を舐るように見下ろす。
 魔導士は、ぴん、と指を弾いた。デュランが帯びていた翠色の鎧が、ぱん、と音を立てて砕け散る。おそらく今日、王国最強となった証に、国王から賜ったばかりの鎧が。
 もはやそこには半裸の少年騎士が、ずたぼろになって倒れているだけだった。
 
「立て。王国最強の騎士よ」
 もはやその称号で呼ばれることこそが、この若者の心を追い詰めることを承知で、魔導士はそう呼ぶ。自信やプライドをすべてもがれ、無力を思い知らされ、それでも最強を冠されることは、戦士にとって屈辱でしかない。
 大方の戦士は、ここで死を請う。
「きさまは負けた。私にかなわなかった。無様な男よ。きさまを八つ裂きにしてから、ゆっくりと国王を討つことにしよう」
 魔導士は屈み込み、デュランの頭を鷲掴みにした。さらさらだったその髪は煤で汚れている。
 上体を上げさせ、座らせた。デュランはなすがままだ。魔導士はその顔を覗き込む。放心したようになった少年騎士の瞳をみつめながら、さあ言えと笑う。
 デュランの瞳が焦点を結び、魔導士を睨みつけて、殺せ、と言った瞬間に、「せ」まで終わらせずに灰にしてやる。そうして威勢よく言葉を吐きつつ、驚いたように目を見開いたまま生涯を終える間抜けな戦士達の最後の姿を見るのが魔導士の愉悦だ。
 だが。
「こ……」
 この騎士は。この若さで。
「国王陛下に……手出しは……させないッ」
「……貴様あッ!!」
 魔導士は咄嗟に手を伸ばした。
 怒りに任せ、デュランの股間を握り締める。
「あがあああ!!!」
「これほどボロボロにやられてなお、騎士としての誇りを失わぬというかッ! 圧倒的な力をみせつけられなお、敗北を認めんというかッ!」
「げぶおおぁぁぁおおぁぁぁっぁっっっ!!」
 激昂のままに、デュランの逸物を捩じり上げる。
「これ以上の苦痛を受ける前に、生き恥を晒す前に、高潔に死にたいとは思わんのかッ! くだらんッ! くだらんくだらんくだらんッ!」
「ごぶえぁぁぁぁあああぐぇぼぁぁぁッッ!!!」
 握り潰される――瞬間、魔導士は呆けたように力を抜いた。
 デュランは仰け反らせていた首を落とした。ほとんど気を失いかけている。
 魔導士はぎりぎりと歯を噛み締めている。
 しばらく二人の息遣いが響き――それから、魔導士は静かに呟いた。
「よかろう。貴様の誇りと忠誠心に免じて、今回は命は助けてやろう。国王もな」
 だが、と魔導士は笑う。
「貴様には死より屈辱的な辱めを与えてやる」
 デュランの股間にあてていた手を、そっと握り締める。今度は力任せにではなく、そっと。


 

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