暴力団に利用されて借金を背負った彼女を守るため奮闘する青年、竜介。
喧嘩が強く、ちんぴらたちを返り討ちにしていた竜介は、ある日、背後からの襲撃にあう――。
* * *
竜介は何かにつまずき、思いっきり前につんのめった。足がもつれ、空回りする。
そのまま竜介は、路上にもんどり打って倒れ込んだ。左肩を強かにアスファルトに打ちつけた。
いったい、何につまずいたのか。痛む左肩をかばいながら身を起こし、竜介は背後を振り向いた。
「はじめまして、竜介くん。私は組のボスに雇われてきた江波という者だ。彼女の場所に案内してくれないかな」
見たことのない男が、じいっと竜介を覗き込んでいた。ドスの利いた低音。上背があるわけでもないのに、妙な威圧感がある。
(なんだこんな奴。誰が来ようが、あいつはおれが守る!)
竜介はパンチを繰り出した。
――がしっ。
至近距離から放ったのに、拳を掴まれていた。
「ちょっと強いからといってプロに喧嘩売っちゃいけねぇな」
言うと江波は、そっと手を外し、唖然としている竜介の右腕をとった。その動作は柔らかく、到底力をこめたようには見えなかった。
ポキッ。
竜介は目を見開いた。
今のはなんの音だ――?
「おっと。すまないな竜介くん。ちょっと手をかけたら骨が折れてしまったようだ。せっかく逞しい腕なのに、申し訳ないな。――おっと、叫ばないでくれ」
くすくすと笑いながら伸ばした江波の腕が、竜介の喉首を鷲掴みにした。
抵抗も反応もできなかった。江波の動きに竜介はついていけない。骨を折られてから折られたと気づき、喉首を掴まれてから掴まれたとわかる。
ぐい、と喉を掴まれたまま力を上にかけられた。
地面に座り込むような姿勢をしていた竜介の、ジーンズを穿いた尻が浮く。
「…………っ! ぉ……」
「ははは、足をばたばたさせてかわいいな。でもせっかくの精悍な顔つ
きと、逞しい身体が台無しだぞ。おっと、目を剥いたな。あと五秒で落ちるか。五、四、三、二――」
一、で離された。竜介は身体を折り、激しく咳き込んだ。
「さて竜介くん、今まで君にやられた奴らが、お礼をしたいと言ってるんだが」
江波の後ろから、三人のちんぴらがにたにたと笑いながら現れた。
以前、叩きのめしてやった奴らだ。竜介は慌ててアスファルトを蹴った。
蹴ったつもりだったが、その前に、膝の裏を蹴られていた。ちんぴらの一人が、足を伸ばしたのだ。
竜介は再び、みじめにアスファルトの上を転がった。
「おうおう、どうした? 立てよ坊や」
ちんぴらの一人が肩を揺らし、せせら笑った。
次の瞬間、有無を言わさず、竜介の脇腹を蹴りつけてきた。エナメルの靴がまともに食い込み息が詰まった。
「う、く……」
起き上がろうとしたところを、今度は背中を踏みつけられた。すぐさま隣からも、もう一人が同じように蹴りつけてくる。
竜介は腹をかばい、アルマジロのように丸まった。
「あれれ、どうしたのかな? 立たないの、坊や? 以前の威勢はどうしたの?」
ちんぴらどもが、はしゃぎながらキックを食らわせてくる。背中に足に肩に、次々と。
目の前で極彩色の火花が散った。苦痛にうめきながら、アスファルトの上をのたうった。
もうよけるどころではない。竜介はサッカーボールのように路上を蹴り転がされ、駐車場の中へ追い詰められていった。体がまったく動いてくれない。竜介はなすすべもなく、男たちの蹴りを受け続けた。
駐車場の隅まで転がり逃げると、男たちの蹴りが一休みした。
竜介は象に踏みつぶされた筆箱みたいにぺしゃんこになってその場に横たわっていた。あまりの衝撃に、関節がバラバラになったような錯覚を覚える。
路面に頬をつけたまま、痛みをこらえ喘いでいると、取り囲んだちんぴらたちを押しのけ、江波が竜介の眼前にしゃがみ込んできた。にこりと笑った。
「散々手こずらせてくれたな」
言うと同時に、ごつい拳が飛んできた。鼻先にダンプが突っ込んできたような衝撃が竜介を襲った。
気がつくと、竜介はアスファルトの上に頬をつけて倒れていた。ほんの一瞬、気を失ったのかもしれない。
鼻の奥で、きな臭い匂いがしている。今の衝撃で、どこかが切れたようだ。
襟元をつかまれ、引き起こされた。
無言のまま、今度は竜介の腹に拳をたたき込んできた。
苦痛に息ができず、視界がゆがんだ。逃げ場を求めて、胃が口から飛び出そうになった。が、出て来たのは酸っぱい消化液だけだった。
竜介は自分の吐いた胃液と鼻血の中に顔を埋め、駐車場のアスファルトの上に爪を立てた。悪寒が背中からこみ上げてくる。
ちんぴらたちが、竜介の頭を靴の先でからかうように蹴ってきた。竜介は頭を庇うように丸まった。
「どうした、竜介くん。遠慮しなくていいんだよ」
靴の裏でぺたぺたと、江波が竜介の頬を何度もたたいた。袋叩きにされた竜介の体は、少しも言うことを聞いてくれなかった。
竜介は二人のちんぴらに両腕を取られ、体を起こされた。
次の瞬間、竜介は駐車場の柵まで吹っ飛んでいた。左頬に、ハンマークレーンがぶち当たったような衝撃だった。視界に虹がかかり、鼻の奥で、つんと血の匂いがした。うつ伏せに倒れた。
「あ……があ……」
「手ごたえがないな。もう少し抵抗してみろよ竜介くん? 男だろ?」
「う……う」
竜介は頭を振って、地面に爪を立てた。
ゆっくり体を起こし、江波を睨みつける。
次の瞬間、今度は江波の足にあごを蹴り上げられていた。竜介の身体は綺麗に地面から浮き、鳩尾、股間と弱点を無防備に晒した。
竜介は後頭部を再び柵にしたたかにぶつけ、柵の脇に崩れ落ちた。地面に落ちたのは理解していたが、どこに空があるのか分からなかった。あまりの衝撃に、平衡感覚が吹き飛ばされていた。
江波の声が遠く聞こえる。
「起きろ、小僧」
起きようと思ったが、体が動かなかった。肩をつかまれ、引き起こされた。背中に何か堅いものがある。柵に体を預けさせられているのだろう。
江
波の拳が唸った。竜介は鳩尾を殴り上げられ、再び宙に浮いた。江波は拳一つで竜介の長身を宙にぶら下げた。
拳が離れ、竜介は地面に倒れ込んだ。全身土ぼこりにまみれて倒れた竜介を、ちんぴらたちが取り囲んでいる。
ボコボコにされて、竜介はもう指先一つ動かすことができなかった。
「いいザマだな竜介。そろそろ女の居場所を言う気になったか?」
「…………」
「言っちまえば楽になるぞ?」
「…………ほ、ざ、け……」
「ほう」
竜介はまたちんぴらたちに無理矢理引き起こされた。霞んだ視界の中で、江波の心底楽しそうな笑みが広がった。
「いい根性だ。おまえみたいな奴こそいたぶり甲斐があるんだよ」
言うと江波は竜介のジャケットに手をかけ、それを剥ぎ取った。ついでぼろぼろに擦り切れたTシャツを、乱暴に引き千切る。
竜介はなすすべもなく上半身裸にひん剥かれた。鍛えられた身体。しかし右腕は肘の部分で青黒く染まり、あちこちが赤く擦り剥けている。
「いい声で鳴けよお」
江波が性的興奮を伴ったいびつな笑みを浮かべた。背中に鳥肌がたった。
竜介は束縛から逃れようともがくが、痛めつけられた体は言うことを聞かない。
次の瞬間、江波の膝蹴りが飛んできた。狙い違わず、竜介の擦り切れたジーンズの、股ぐらへ。
呼吸が詰まった。
内臓が爆発した。
視界が揺れ、奇妙な浮遊感が竜介を襲った。
「ぐ……おっ……」
倒れ込む竜介の背中を江波がぱんぱんと笑いながら叩いた。竜介は地面に頭から激突し、身体中に爆発した痛みから逃れようともがいた。盛大に胃液をぶちまけ、海老みたいに丸まった。
「どうしたんだ、竜介くん」
江波の笑い声が頭上から振り、竜介はちんぴらたちに股間を抑えていた腕を引き剥がされた。
「あ……あぐ……あぐうっ! ううう」
竜介は四肢を鷲掴みにされて仰向けに転がされ、呻き声をあげた。ちんぴら達の爆笑する声が遠くから聞こえる。
股間の上に感触を感じた。江波のエナメルの靴が、ジーンズの上から竜介の逸物を少しずつ圧迫する。
「がああっ……ああ……」
金玉が靴に挟み込まれた。さらに圧迫が加わり、全身を悪寒が走った。
「そうら」
江波が足を振り上げ、竜介の股間を蹴りつけた。再び下半身から鈍い衝撃が走る。
「あうううう……!!」
竜介は笑っているちんぴら達から腕をもぎ離し、股間を抑えて丸まった。
「さっきの威勢はどうしたあ?」
「あ……ううううう……ううっう……」
「急所を攻撃されちゃひとたまりもねぇかぁ。ひひひ。いい男が台無しだぜぇ」
竜介はまた腕を掴まれて立たされた。もはや一方的だった。弱点への攻撃に、竜介は戦意を喪失していた。
江波が笑いながら竜介の胸の乳首付近を指先で撫でた。
「あうっ!」
竜介は身体を曲げた。江波がおもしろそうな顔をする。
「おう、小僧、どうしたぁ? これだけで」
再度竜介の上半身を、上から指一本でなぞった。
「あうっ……あ……ああ」
ちんぴら達が爆笑する。
竜介は全身の筋肉が弛緩し、ちんぴら達に支えられていなければ倒れてしまいそうだった。
「おや……、兄ちゃん、勃っちまってるぜ」
江波が竜介の股間をジーンズの上から撫でる。悔しさで涙がでた。
それから、江波は竜介の身体を何度も撫でた。殴るでもなく蹴るでもなく、ただ撫でられるだけで力が抜けていく。
背中を撫でられ、尻をくすぐられ、竜介は力尽きた。ちんぴら達の笑い声が駄目押しで竜介の闘志を奪った。
ちんぴら達が手を放し、竜介は地面に崩れ落ちた。
すぐに仰向けにさせられた。股間が張り詰め、痛い。
「よう、どうだ」
「あう……」
ジーンズの上からでもはっきりわかるほどテントを張った竜介の逸物を、江波が撫でる。
亀頭を撫でられ、竜介は痙攣するみたいに震えた。
力が入らない。
「あぐう!!」
江波が竜介の股間を鷲掴みにした。そのまま股間から竜介を引き起こす。
「どうだ兄ちゃん。自分の情けなさがよくわかったろう」
なんとか江波を睨みつけようとしたが、胸を撫でられ、竜介はがくりと頭を垂れた。
股間を摩られ、遂にこらえきれずにジーンズの中で射精する。
ちんぴら達が爆笑した。身体に残っていたわずかな力と心に残っていたわずかな気力が、竜介から永遠に失われた。
掴まれていた腕を放され、竜介は頭から地面に激突した。身体が少しも動かず、意識がぼやけていく。
それでも江波は許さなかった。竜介はジーンズを無理矢理引き剥がされ、トランクス一枚にされた。
「あう……ぁ」
トランクスの上から撫で摩られ、竜介は喘いだ。刺激がさっきまでより一層強い。ちんぴら達が爆笑する。
それから交代ばんこに、竜介の股間に蹴りをめり込ませた。膝蹴りをくらい、屹立した急所にびんたをくらい、両膝達に引き起こされ、背後から伸びてきた手に股間を鷲掴みにされる。
青年は完全にちんぴら達の玩具にされていた。脂汗にまみれ、目を剥き、口から涎を垂らすその顔に、いつもの自由闊達で逞しい笑みは微塵もなかった。
「どうだ小僧。まだ意識はあるか?」
地面に倒れた竜介に、江波が顔を近づけた。脂汗にまみれた竜介の頭を鷲掴みにすると、宙に吊り上げた。
傷だらけになった体が江波の前に晒される。ぴくぴくと痙攣する竜介の身体。踏まれ、ボロボロになったトランクス。
最期の時が近づいていた。
「ここまで股間を痛めつけられたんだ。おまえはもう男として終わりだ」
「…………」
「もう喋る気力もないようだな。虫の息か。徹底的に股間をやられてどんな気分だ? ああ? 女の居場所を吐く気になったか?」
「…………」
「起きろ」
トランクス越しに股間にブローがめり込む。
「―――
―!」
「ひひひ、口をぱくぱく開けて、可愛いねぇ。そんな顔されるともっとやりたくなっちまう。ほおら。ほおら。ほおら。ほおら」
どごん。
どぐっ。
どごっ。
どごっ。
ぼぐっ。
ゴキャッ――
「おっと、ひとつ潰れたな。悪い悪い。生きてるか? おい?」
ぴく、ぴくと痙攣する竜介の身体。
トランクスの隙間から血の混じった体液が垂れ落ち、太ももを伝った。
竜介は反応しない。反応できない。
「終わりだな。つまらん。おまえらにくれてやる。とどめを刺してやれ」
手を離され、どさりと地面に崩れ落ちた。
「女の居場所はどうします? 吐かせますか?」
「もう無理だろう。心配せずとも携帯に……あった。先に行ってるぞ。後から来い」
遠ざかる声。ちんぴらたちが笑いながら、はい、と返事した。
「さあて、どうしてやるか」
「見ろよ。玉潰されて勃起して、目剥いて痙攣してるぜ」
「もうひとつ潰してやりゃあ死ぬなあ! ギャハハハ!」
「俺にやらせろ!」
仰向けに大の字にされた。トランクスの上から、股間に靴が乗せられた。
ゆっくりと、圧力がかけられていく。
踏みにじられ傷だらけになった竜介の手が、空の何かを掴むように開き――
力を失い、地面に横たわった。
数時間後、ヤクザ達に嬲られ、睾丸を潰されたぼろぼろの青年が、彼女の前に突き出された。
青年は誰も守ることができなかった。
コメント
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またこの竜介みたいなジーンズはいたイケメン騎士様がやられるような小説、待ってます!!応援してます!
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このごろ小説はなかなか書けてませんね〜。
またそのうちがんばりますよ!
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竜介くん!復活してほしいです!!