聖剣伝説3 デュランVS紅蓮の魔導士 2

 デュランの身体は、地面から吹き上げられた巨大な火柱に呑み込まれていた。業火の圧倒的な勢いで足が地面から離れ、少年の身体は宙に繋ぎとめられる。
 身に帯びた鎧の隙間から、炎が少年の全身を刺し貫く。
「ぐううあああああああああああああああああああああああああああッ!!!」
「くくくっ。攻撃魔術に馴染みがないようだな」
 目を見開き、絶叫をあげるデュランを見やったまま、魔導士は冷笑する。クン、と指を動かした。
 刹那、宙に握り拳大の火球が次々と生じ、火柱に繋ぎとめられたデュランに放たれた。
「ぎゃっ! ぎゃああっ!! わあああっっ!! うわっぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」
 デュランの鎧は軽装歩兵のものだ。沢山ある隙間を、火球は打ち据える。すぐにアンダーシャツが焼き切れ、ぼろぼろになった。
 魔導士は手を下ろした。火球と火柱がふっと消失する。
 デュランの身体は戒めを解かれ――だが少年は自分の足で着地することができなかった。
 どしゃあッ!
 受け身も取れずに頭から地面に倒れ伏す。
「ぁ……ぁ、ぁぁ……」
「ふはははははっっ!! どうした。たった一撃でこのザマか。立て! 立って足掻け!!」
「……くっ」
 デュランは立ちあがろうと身体に力をこめる。だが身体が自由に動かない。ぴく、ぴく、とみじめに痙攣するのみ。
「くく、全身を内側から灼かれ、筋肉が思い通りに動かないようだな」
「ぅ……ぅぅぅっ」
「芋虫のように這いつくばっているだけか。ハッハッハ! まだまだ子供だな。こんな奴を傭兵として雇っているようじゃ、英雄王とやらも噂ほど大した王じゃなさそうだ」
「……こっ」
「ん?」
「国王…陛下を…悪く言う…ことは……許さ…ん……」
 魔導士は、にっ、と酷薄な笑った。それから、さっと右手を宙へ向けて払う。放られるようにデュランの身体が再び宙に浮いた。
 その周囲に、今度は氷塊が現出する。
「熱いだろう。冷ましてやろう」
「や、やろぉ……」
 どごっ!
 デュランが悪態をつこうとした次の瞬間には、拳大の氷弾がデュランの腹にめりこんでいた。
 自分の内臓が、めりめりっと軋む音が聞こえる。
「が――がはっ。ごぼっ」
 溜まらず吐血するデュラン。
 それをを皮切りに、次々と氷弾がデュランを打つ。
「ごぶっ! わっ! があっっ!」
 少年の身体は、もはや単なるマトと化す。四方八方、全方位から氷弾が打ち込まれる。腕、腹、脚、胸、顔面。
 人はダメージを受けるときに、無意識にその部位に意識を集中させ備える。ダメージを負ってもすぐに復帰できるよう、脳に準備させるためだ。やられても次の瞬間には挽回する――それが闘志となる。
「ごほおっ! がはっ! げぶあっっ、、ぁぁぁ」
 全方位からの攻撃は、それを破壊する。一撃一撃に被撃するうちに、やられる者は、肉体と一緒に闘志まで破壊されることになる。赤子のようなものだ。自らを守る術などなく、圧倒的な暴力の前にはただただ屈するしか術がないことを本能レベルで叩き込まれるのだ。
 攻撃がやんだ。
「どうした、少年騎士よ」
「…………」
 デュランの割れた額から血が伝い落ち、鼻血と混じって顎から下へ流れ落ちる。右目は半分潰れていた。
「……ぁ、ぁ」
 苦痛に呻くデュランの表情に、もはや王国最強騎士の凛々しさや闘志を窺うことはできない。それを隠そうとする気力すら湧き上がらないほどへし折られた。たった二度の魔術で。
「くくく……ッ」
 魔導士はデュランの眼前に歩み寄り、少年騎士の無様な顔を覗き込む。嘲るように。
「ぐ……」
 デュランはそれに気付き、目に力を込める。刹那。
「そらっ」
 魔導士がさっと身を横にひく。
 と、残っていた最後の氷弾が宙を疾駆した。空を切る音とともに弾丸と化し、一直線にデュランに打ち込まれた。
 その無防備だったその股ぐらへ。
 ――ゴキャッ
「……ッ」
 デュランは飛び出さんばかりに目を見開いたが、すぐにダメージを知覚することはできなかった。ただ自分の何か脆いもの一つが、呆気なく破壊された感触だけは伝わった。
「あ……あ――」
 一拍遅れて、王国最強の少年騎士の狂わんばかりの絶叫が、あたり一帯に響き渡った。
「んんぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーッッ!!!」


 

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