壮太が格闘技を習いはじめたのは、五年前の事件がきっかけだった。
五年前、まだ小学生のとき、壮太の姉は謎の男達に浚われた。二人で住んでいたアパートに、突如見知らぬ男達が押し入ってきて、力づくで姉を連れていったのだ。
壮太は何もできなかった。姉を連れていこうとする長身の男に飛び掛ったが、一振りで吹っ飛ばされた。壮太の小さな身体は、押入れの襖を破って中に転がり込まされた。
(弟に手を出さないで!)
(飛び掛ってきた以上、仕方ないでしょう。痛みは与えていません。意味なく子供に手をかけるようなことはしない。まあ、元気のいい恋人は、少々痛い目に遭ったようですがね。江波はやりすぎる)
(……竜介を、どうしたの)
(死んではいません。ついてきてもらえれば、お目にかけましょう。ですがあなたがあくまで抵抗するのであれば、彼には死んでいただきます。壮太くんの身の安全も保証できません。彼らの命は、あなたの誠意にかかっているのですよ)
(……卑怯者)
(褒め言葉と受け取っておきましょう)
男が姉を連れて出て行くのを、壮太は黙ったまま見ているしかなかった。自分は男なのに、姉一人護れないなんて――
それだけでも擦り切れそうな少年のプライドは、その後さらにズタズタにされた。
男の言うとおり壮太の身体は傷つけられなかったが、代わりに少年の純粋な精神は徹底的に痛めつけられた。
手錠をされ、足枷を受け、二本のバイブレーターが、短パンの上から壮太の股間を挟み撃ちにした。あっという間に盛り上がっていく股間。
未知の感覚に壮太は泡を吹いた。
自慰もまだしたことがない少年が耐えられるものではなかった。
あっという間に射精し、呆然とする壮太に、しかしチンピラ達は容赦しなかった。扱かれ、強制射精を繰り返させられた。
(ほれほれ、もっといい声出してみな。全部ビデオに撮ってるからよ)
精液が噴出す。
(おいおいソータくん、今出したら大切な姉ちゃんのハンカチが汚れちまうぜぇ?)
ドピュッドピュッドピュッドピュッ……
喘ぎ声。チンピラの笑い声。
饗宴が終わる頃には、窓の外は真っ暗だった。
自身が放出した精液の池の中に横たわり、ひくひくと震える少年の身体。全裸だ。体操服と短パン、トランクスはビリビリに裂かれてゴミ箱に放り込まれている。
白濁液が部屋をまんべんなく汚していた。少年のランドセルや勉強道具。チンピラ達によって、吹きかけさせられた。
(ほらほら、汚すんじゃねぇよ!)
姉の大事にしていてぬいぐるみが、精液にまみれて壮太を見ている。
ぬいぐるみの円らな瞳に映った自分の姿を、少年は虚ろな瞳でみつめる。
(そろそろ行くか。見たいテレビがあるんだよ)
チンピラの一人が時計を見ながら言い、壮太の頭に乗せていた革靴をよかした。
(警察なんぞに知らせるんじゃねぇぞ。そんなことしたら、このビデオを学校中の奴らが見ることになるぜ)
ペッ、と音がした。吐きかけられた唾が壮太の頬の上で泡だった。
横たわった少年は、壊れたように動かない。唇の端からは涎が垂れ、それに精液が混じる。
少年の心は完璧に打ち砕かれた。
(恨むんなら姉貴の恋人を恨むんだな。少し脅されただけで、泣いて姉ちゃんの居場所をほいほい差し出したってよ!)
(情けねぇ奴! そいつさえいなけりゃおまえも姉ちゃんも、こんな目に遭うこともなかったろうになあ!)
ペッともう一度唾が吐きかけられ、チンピラ達は出て行った。
部屋は静かになった。なんの音もしない。
――少し脅されただけで、泣いて姉ちゃんの居場所をほいほい差し出したってよ!
――そいつさえいなけりゃおまえも姉ちゃんも、こんな目に遭うこともなかったろうになあ!
それから何時間もの間、少年は倒れ付したまま動かなかった。
床に倒れたまま、握り締められた少年の拳から、いつしかぽたぽたと血が伝い落ちていた。